接地極の延長&リーク電流はどこから?

やらなきゃやらなきゃと思っていてずっと放置していたPC周りの接地線の接続をやった。日本では接地極付きのコンセントは水周りやエアコンしかなく、PCなどの電源は緑色の接地線が出てるケーブルやアダプタを使いコンセントに接続はするものの、接地線は宙に浮いてることが多い気がする。

EarthEarth

うちの接地極は冷蔵庫の隣にしかなく、PCのタップまで接地線を10m這わせることになった。接地線はamazonで10m600円程度。電源タップはFURMANのもので、ケース全体が金属でできていて接地に繋がっている。分配側は接地極つきコンセントで、コンセントの間にあの緑の接地線を接続するネジまでついているので便利だ。ただ、amazonではコイツが原因で漏電したという話がちらほら。4年くらい使っているので近いうちに開けてチェックしてみようと思う。作りは気に入ってるんだけどな(しかし悪い評判によって値下がりしてくるのならある意味…)。

接地線を接続するまえに、先月買ったCD772でどれくらい漏電(リーク)してるか調べてみた。多くのデジタルマルチメーターは交流電流(ACA)の測定ができる、アナログでACA対応は見たことがないSANWAのEM7000がある(ただし6Aレンジのみ)。CD772の最小は400uA(±1.6%rdg + 3dgt)レンジ。測定してみた結果、PCや液晶モニタを使っているときは表示値で常時0.55~0.66[mArms]ほどリークしていた。PCの対地電圧は50[Vrms]。もちろん触れても痺れたりはしない。接地とPC側の接地線を濡れた手で触れればなんとか分かる。乾燥しているとわからない。

AC 50VAC 650uA

観測は以上、一応まとめてみる:

  • 電源タップ(PCとモニタ2台接続)の接地ケーブル(FG)と接地線
  • 対地電圧は約50[Vrms] (機材のON/OFFで揺れがある)
  • リーク電流は0.5~0.6[mArms] (機材のON/OFFで揺れがある)

こちらの方がうちとほぼ同じ例を載せてくれている。やってること(接地線の延長)からマルチメーターのメーカーまで同じだ。うちの方が0.1[mA]ほどリーク電流が大きいが、ほぼ同じ。

要は問題(故障/経年劣化)なのか正常なのか分かればよい。PCとモニタ2枚で0.5[mArms]程度のリーク電流は大きいのか?結論から言えば単一機器で0.5[mArms]程度はコンシューマ向け製品では普通にありうる。むしろ3電源の合計で0.6[mArms]はけっこう優秀なのかもしれない。なお、日本では漏電遮断器(GFCI)の定格感度電流を15[mA]としている。医療向け機器のスタンダード(IEC60601-1)でも一番緩い要求レベルがリーク電流0.5[mA]のようだ。一番厳しいレベルになると10[uA]になる。


■リーク電流はどこからくるのか?

Waveform
(接地を短絡していない状態の機材と接地間の波形、横線はGNDレベル)


スイッチング電源のフィルター部分だ、という情報が多く見つかる。そういうネット上の情報は鵜呑みにはしないが、それを元にして確認する分には出発点としてよいかもしれない。それに「オレもそう思う」とゴーストがささやいている。

スイッチング電源の解説はいろいろあるが、mouserに載ってるTDKの説明がとても分かりやすい。

TDK

Input Filtering部でYコンデンサ経由でGNDに繋がっている。現物を見てみよう。

PSUYCAP

このセラミックコンデンサのデータシートを見つけた。

Panasonic Type TS IEC60384-14 Sub-class Y2/X1

うちのは472、つまり4700[pF]だった。これを経由して接地に繋がっている。TDKの説明でも、実際のPSUでもそうなっている。そしてリーク電流はここからくる。


■なぜ50Vなのか?

ネットで調べると「心配しなくていい」という人と、「50Vはシャレにならない!今すぐにどうたらこうたら!」という人に分かれる。短絡したところで0.5[mArms]のものがどうして危険なのか、まぁそこはいい。先ほどのここの方もコメントで「48Vは高い」とつっこまれているのだが、では何Vなら満足なんだろう。

結論から言えば電源のフィルター部(コモンモードフィルタ)がYコンデンサ2つでGNDにバイパスしている回路であり、AC100[Vrms]入力で、FGを接地極に接続していない場合、シャーシ/ケース側(FG)の対地電圧は

50[Vrms]前後になる

筈である。あるいは50[Vrms]になるべきである。この構成では48[Vrms]は何も心配する必要はない。分圧されてYコンに50[V]/4700[pF]がチャージされた、それだけだ。むしろYコン2つ構成では50Vから離れるほど片方あるいは両方が劣化してきている疑いがある(その場合リーク電流も多く流れるかもしれない)。問題は接地に短絡したときに流れる電流の方だ。50[V]/4700[pF]では1msでディスチャージされても0.2[mA]程度しか流れない。

マルチメーターで0.6[mArms]と表示されたのならおそらく安全である。「おそらく」というのは、普通は交流の測定というと正弦波や矩形波のような波形のことで、ノイズではない。デジタルマルチメーターには対応している交流の確度保証周波数や確度保証クレストファクタ(Vp/Vrms)が定められている。CD772の場合はクレストファクタ3.0以下、つまりVpはVrmsの3倍を超えてはならない。非TrueRMSなマルチメーターではTrueRMSのマルチメーターとかなり異なる(信用できない)値が表示されるだろう。TrueRMSだからといって正確とは限らないが、非TrueRMSでは正弦波以外は何も期待できないので測定に使うメーターは必ずTrueRMSのものを使うこと。(参考:What is true-rms? - Fluke)

さて、手元にある電源ユニットの入力部を追ってみるとまんまそうなのだが、電源ユニットのAC部の一般的な回路は以下のようになっている(ヒューズとかスイッチは省く)。

一般的なスイッチング電源のAC部のフィルタ

ここでCY1、CY2と接地のセットはコモンモードフィルタと呼ばれ、CY1,CY2は同じ容量のものを使う。
一方でこの形はそのまんま 分圧回路(Capacitive divider) でもある。

a~b間電圧 = CY1 / (CY1 + CY2) * Vin
           = 4700[pF] / (4700[pF] + 4700[pF]) * 100[Vrms]
           = 50 [Vrms]
           = b~c間電圧

どれくらい電流が流れるかはデータシートかインピーダンス(容量リアクタンス)から求めることになる。インピーダンスから計算すると、

Xc[Ω] = 1 / (2*π*f*CY1) ... 対象はCY1, f=50Hzとする
      = 1 / (2*π*50*4700*10^-12)
      = 約677 [kΩ]

I = V / Xc より、50[Vrms] / 677[kΩ] = 0.07 [mArms]、これは理論値又は理想の値だ。

しかし例えば100kHzのノイズに対しては

Xc[Ω] = 1 / (2*π*100000*4700*10^-12)
      = 約338 [Ω] (単位がキロオームではない)

となる。高周波のノイズを除去できる理由はこういうことなのだろう。

COSELさんの資料に従うと、
COSEL

I = 2*π*f*C*E
  = 2*π*50*4700*10^-12*100
  = 0.14 [mA]

この「E:ライン-アース間の電源電圧」というのが分圧された値なのか、言葉通りに受け取っていいのかわからなかった。分圧されていない値で計算してみたが、この場合接地しないと電源のシャーシ(FG)の対地電圧は100[Vrms]になるだろう。ましかし、リーク電流は0.x [mA] レベルであることには違いない。


一方データシートのリーク電流(Leakage Current)をみると

Leakage Current

500[Vrms]で1.2[mA]とし、0[Vrms]から500[Vrms]まではリニア(y = ax)であると仮定すると、電圧50[Vrms]時に流れる電流は、
(1.2 / 500) * 50 = 0.12 [mA] 。ただしこのデータシートのグラフは60Hz時のものである。

リーク電流とフィルタされて接地に流れたノイズを足し合わせたものの総計(3台+タップ分)が実際に流れている電流だろう。このPSU単体ではワーストで考えてaも接地へは常時0.2[mArms]以下のリークであると想定できる。



■どんなノイズが接地側に流れているのか

単に両端の電圧を測ってもダメ。これはそれをやった図。

Waveform

これはGNDカップリングでゼロ設定してからDCカップリングにしているのだが、マイナス側に振れてるのが気にかかる。どこかのYコンの片方が劣化してきているのかもしれない。なるほど50[Vrms]でもこういう波形になる場合もあるのか…。まとにかく、接地せずに電圧を測るとこうなり、ノイズも何も拾えないということだ。これは単にYコンデンサ(しかも複数の電源)のチャージ具合を示しているだけだ(しかも偏っている)。

10[Ω]のシャント抵抗(それ用ではなく普通のだが…)を繋いで電圧降下(≒電流)を観測することにした。流れる電流は0.6[mArms]程度と分かっているから、この抵抗により発生する電圧降下は
V = 0.6[mArms] * 10[Ω] = 0.006[Vrms]
クレストファクタが限界の3.0だとすると18[mV peak]程度の波形になるからオシロで丁度よく見れるスケールになるだろう。

ShuntVoltage Drop
(こういう時にACのmVレンジがあると便利だろうな...
 あるじゃん!なんでRANGE HOLD押さないとmVにならないんだ?オートレンジじゃないんかい!
 mVレンジでは5.7[mVrms]だった)


noise

最初ここで見えるスパイクはPSUのスイッチングノイズに関係していると思った。なぜかというと、PCの負荷を上げるとA~B間の距離がヌルヌル動くからだ。デューティ比のように思えた。ブラウザのウィンドウなどを移動させるとGPUの負荷が上がるらしく同じことが起こる。…でもTIME/DIVをみて50Hzの波に同期しているのはおかしいと気づいた。スイッチングノイズはもっと高周波の筈。とするとコイル/トランスあたりの突入電流か。ピークのとこだけに出ているからそれっぽいなぁ。A~Bの区間で電流が一気に流れている…でも深追はしないほうがよさそうだ。

そしてやはりCD772が表示した5.7[mVrms]は少し低いと思う。仮にオシロが正しいとするとスパイクのピーク(Vp)は38~40[mV]くらいあるので、クレストファクタは6.0以上になっている。真の値[mVrms]はもう少し大きいだろう。



■まとめ

  • 接地線は接続しましょう
  • PCのリーク電流はスイッチング電源のコモンモードフィルタからくる
  • 接地を接続していない場合に生じる50[Vrms]の対地電圧はコモンモードフィルタ部の分圧(Capacitive Divider)で作られる、リーク電流が電源一つにつき0.5[mArms]程度なら心配しなくていい
  • 異常がなくてもわずかなリーク電流が流れることから、ガス管や水道管は接地極の代わりには適さない(電気による化学変化)
  • デジタルマルチメーターでは交流電圧(ACV)、交流電流(ACA)が測れるが、ノイズに対しては正確とは限らない
  • PCのリーク電流(0.5mA程度)が気に入らないならそれなりのPSUを買いましょう →医用電気機器規格IEC60601-1対応ATX電源
  • ノイズフィルタやサージ保護付きのタップもリーク電流の発生源になりうる
  • 非接地時の対地電位のグラフが片側に偏っている場合、等分に分圧されていない可能性がある→後日要調査


参考資料・リンク



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